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建築学を学んだチャールズ・イームズ(Charles Eames;1907/06/17〜1978/08/21)と絵画を学んだレイ・イームズ(Ray Eames;1912/12/15〜1988/08/21)は、実に見事なコラボレーションを生み出した。すなわち、工業的・技術的な視野からのチャールズのアプローチと空間的・芸術的な視野からのレイのアプローチの融合であり対話であり昇華である。
二人は、合板を立体的に曲げる成形技術の開発に取り組み、1945-1946年にかけて、もはや伝説とも言えるLCW/LCM/DCW/DCMを発表。これを契機に、当時ハーマンミラーのディレクターであったジョージ・ネルソンに請われ、同社とデザインコンサルタント契約を結び、次々と優美なフォルムと卓越した機能性を兼ね備える家具を世に送り出した。
現在正規品はハーマンミラーとヴィトラから販売されている。イームズは数多くの名作を残しているが、その中でも代表的なものを幾つか紹介しよう。
世紀の椅子、合板ラウンジチェアー&ダイニングチェアー
イームズは、第二次世界大戦中、アメリカ海軍の要請を受け、成形合板(プライウッド)による負傷兵用の添木や担架の開発に携わる。そこで培われた成形技術がLCW/LCM/DCW/DCMに応用されている。
LCはラウンジチェア、DCはダイニングチェア、それぞれウッドレッグ(W)のものとメタルレッグ(M)のものがある。
もしもあなたが、プライウッドチェアに対する一般的なイメージ―――硬くて座りにくそう―――を抱きながら、イームズのプライウッドチェアに腰を下ろしたら、軽いショックを覚えるかもしれない。なぜなら、緩やかなカーブを描くシートは、お尻から太ももにかけて優しくフィットするように、また、背の部分に仕込まれたラバー製ショックマウントは、背に凭れたときに背中と腰を柔らかくサポートするように、設計されているからである。
ラウンジで使う椅子であるLCW/LCMは、ダイニングで使う椅子であるDCW/DCMよりも座面が低く、横幅が広い。LCW/LCMはまるでソファのような座り心地を提供してくれる。
なお、LCMはニューヨーク近代美術館(MoMA)に永久展示されている。
イームズの代名詞、シェルチェアー
シェルチェアとは、シェルすなわち貝殻のような曲面で構成された椅子を指し、エーロ・サーリネンのぺデスタルチェア(別名チューリップチェア;1956年発表)やハリー・ベルトイアのダイアモンドチェア(1952年発表)などが代表例として挙げられる。
しかし、おそらくシェルチェアと言って真っ先に思い浮かべるのはイームズのシェルチェアであろう。イームズのシェルチェアは1949年からハーマンミラーから、軽量で頑丈でローコストなFRP(Fiber Reinforced Plastics;強化ガラス)製で製品化された。その前身は、1948年MoMA主催の低コスト家具デザインコンペに出展されたスチール製アームシェルチェアである。さらにその原型は、チャールズとエーロ・サーリネンの合作、オーガニックアームチェア(1940年設計 / 1941年製作)に見ることができる。
シェルはアームしのサイドシェルとアーム付きのアームシェルの2種類。このシェルに、エッフェルベースやHベース、スタッキングベース、ロッキング(ロッカー)ベースなど、様々なベースを取り付けることができる。また、豊富なカラーやファブリックをセレクトすることができる。この辺りの“遊び心”は流石と言うほかにない。
なお、FRP製シェルチェアは1993年リサイクルできない素材であるために姿を消している(現在のシェルチェアはプラスチックポリプロピレン製)。
不屈の名作、ラウンジチェアー&オットマン
不屈の名作と名高いのは、1956年、友人である映画監督ビリー・ワイルダーのためにデザインしたと言われるラウンジチェア&オットマン(No.670 / 671)である。
これは、ハーマンミラーのベストセラーの一つでもある。その重厚で優美な姿はCMやドラマなどに幾度となく登場してきた。
このラウンジチェア&オットマンは、イームズの手による椅子の中で、その豪華さと快適さにおいて群を抜いている。緩やかなカーブを描くプライウッドのシェル、その上に配された柔らかなクッション、そしてそれを覆うしなやかなイタリアンレザー。ゆったりとラウンジチェアに身を任せてオットマンに足を乗せれば、至福の時を約束してくれるだろう。
2006年はラウンジチェア&オットマンがリリースされてから丁度50周年の節目にあたる。これを記念してハーマンミラージャパンはイベントを企画するとともにキャンペーンを展開している。
オフィスチェアの原点、アルミナムグループチェアー
1958年に発表されたアルミナムグループ・チェアは、とても半世紀前にデザインされた椅子とは思えないほど、洗練された機能美に溢れ、計算されや座り心地を実現している。
アルミナムグループには、ローバック / ハイバック / アーム付き / アームなし / キャスター付き / キャスターなし、など様々なバリエーションが存在する。このシリーズを特徴付けているのは、センシティブでありながらパワフルでもある秀逸なデザインのフレーム構造である。
実はこの椅子、アレキサンダー・ジラードのリクエストによりアウトドアチェアとして開発された経緯を持っているのだが、今日のオフィスチェアの原点と言っても過言ではなく、あらゆるビジネスシーンまたプライベートシーンで愛用される椅子となった。
アルミナムグループは現在でもハーマンミラーからリリースされているのだが、アルミナムグループの思想は、約10年後、1969年に発表されたアルミナソフトパッドグループに引き継がれている。
風格のステータスシンボル、エグゼクティブチェアー
1960年、イームズは、ロックフェラー・センターに新築されるタイム・ライフ社ビルのために、会議室でもロビーでも使用できる回転椅子を新しくデザインした。別名タイム・ライフ・チェアと呼ばれるエグゼクティブ・チェアである。
このチェアは、彼のラウンジチェアの究極の座り心地を保ちつつ、よりコンパクトなサイズを実現している。
その快適さを如実に物語る逸話―――1972年世界チェス大会において、名匠ボビー・フィッシャーと対戦相手のボリス・スパースキーが、このチェアに座って試合を行うことを要求した―――は、あまりにも有名である。
イームズの“心意気”
このようにイームズがデザイン史に残した名作 / 傑作は輝かしいものばかりである。
オリジナルのヴィンテージは当然のようにコレクターに人気が高く、リプロダクションよりも高値が付くことがある。保存状態のよいものであれば、言うまでもない。
元々大量生産されたFRP製シェルチェアは中古市場に出回る頻度が高いので、ネットオークションやリサイクルショップをこまめにチェックすると、リーズナブルな価格で入手することができるかもしれない。
もしもイームズの椅子に触れる機会が訪れたら、オリジナルのヴィンテージにせよ、リプロダクションにせよ、その快適さを堪能してほしい。
使う者にとっての使い勝手の良さを具現化した、それがイームズのデザインでありイームズの“心意気”である―――そう肌で感じとることができるだろう。 |